豊胸手術と言えば、かつてはシリコンバッグ豊胸が主流でした。しかし近年、自己脂肪による豊胸手術のニーズが高まっています。実際、当院でも多くの方が脂肪注入豊胸を希望し、来院されているのです。
豊胸手術の移り行くニーズ変化と、脂肪注入豊胸におけるリスク回避のポイントについて医学的見解を踏まえながらお伝えします。

豊胸のニーズはシリコンバッグ豊胸から脂肪注入豊胸へ

これまでの主流であったシリコンバッグ豊胸は、豊胸手術を受ける女性が年々増加しているにも関わらず、シリコンバッグを用いる豊胸術の実施数は2000年代当初をピークに減ってきているといいます。
その理由として、見た目や触感が本物同様の脂肪注入豊胸の技術が進歩したことが大きいと考えられます。そんな2つの豊胸術の違いを具体的に見ていきましょう。

脂肪注入豊胸とシリコンバッグ豊胸の比較

脂肪注入豊胸とシリコンバッグ豊胸の比較:見た目と触感

シリコンバッグ豊胸は、人工物特有の不自然さがどうしても否めません。シリコンバッグの入っているバストは、一目見て分かることがほとんどで、触診すれば必ず分かります。
一方、脂肪注入豊胸では、技術力の高いドクターが行った脂肪注入豊胸は、豊胸手術の経験が多い我々医師の目から見ても、一目見ただけでは豊胸手術を受けているか分からないほど自然です。

脂肪注入豊胸とシリコンバッグ豊胸の比較:異物反応

次にあげられるのが、注入(挿入)素材による異物反応です。シリコンバッグは自己組織である脂肪と違い、身体にとっては異物です。このような異物から体を守るために、シリコンバックの周りに皮膜を形成して隔離しようとします。人によってはこの反応が強く、皮膜が厚く形成されてしまい、見た目や触感、また揺れなどの動きに対しても不自然になってしまうのです。これをカプセル拘縮といい、本人が自覚しない軽い拘縮から、触ると不自然さを感じる状態、見た目からしても明らかに不自然な状態など様々な拘縮レベルがあります。
脂肪注入豊胸の場合、自己脂肪を活用した豊胸術であるため、拒絶反応はもちろん起こりません。

豊胸手術のニーズの変化

脂肪注入豊胸とシリコンバッグ豊胸の比較:加齢によるバスト変化

シリコンバッグ豊胸では、バッグを挿入した直後はきれいに見えたバストも、加齢によるバスト変化によって徐々に不自然になってしまいます。本来バストは年齢とともに皮膚や筋肉のたるみなどが生じ、年相応に下垂してきます。シリコンバッグでは、この加齢によるバスト変化に順応することができません。これは、どんなに最新の柔らかく安全といわれているシリコンインバッグを入れても同様に、必ず不自然なバストになってしまうのです。
脂肪注入による豊胸手術であれば、加齢に合わせて年相応の自然なバストに変化していきます。

脂肪注入豊胸とシリコンバッグ豊胸の比較:癌のリスク

近年シリコンインバッグの新たな合併症として問題になっているのが、未分化大細胞リンパ腫(ALCL)と言われる、いわば血液の癌です。ただしこの発症率は稀で、いたずらに恐れる必要はないかもしれませんが、このようなリスクがあることは医師から十分に説明があるべきでしょう。
FDA(米国食品医薬局)が承認をしたシリコンバッグはAllergan社、Mentor社、Sientra社などがありますが、当のFDAでさえ、「豊胸用のインプラントは生涯使用できる器具ではない。」と述べています。
また、脂肪注入豊胸に関しては血液の癌はもちろん、乳癌においても因果関係は一切ありません。

脂肪注入豊胸のなら確実に安全なのか?

「脂肪注入豊胸なら確実に安全なのか」そう思う方も少なくないのではないでしょうか。その疑問にお答えしていこうと思います。

アメリカで禁止されていた脂肪注入豊胸

脂肪注入豊胸においては、今のように広く受け入れられるようになる前は、ドクターにもあまり知識がなく、多量に注入すれば、より多く定着すると考えて、固まりで注入している時代がありました。脂肪は生きている組織ですから、そのような注入法では、注入された脂肪組織に血液が回らず、壊死して感染したり、後でしこりやのう胞(水のたまった袋)になるという合併症が多く見られ、一時期、アメリカではこのような脂肪注入法が禁止される事態になったこともあります。

しこりのリスクを払拭した脂肪注入豊胸の注入技術

その後、脂肪を細かく分散して注入するColemanテクニックが提唱され、再びに直されるようになったのです。この技術は、マルチプルインジェクションと呼ばれています。
この概念をさらに進化させたのが、φ2.4mmヌードルインジェクションというテクニックで、わずか0.5ccの脂肪を11cmの細いヌードル状にして注入する技術です。術者であるドクターの技術に依存するところが大きいですが、しこりやのう胞を防ぎ、確実な豊胸効果を得るために必要な技術となります。
また、直径2.4mmというのは、注入された脂肪組織が十分な血流を得て、脂肪組織として定着するのに必要な細さだからです。これ以上、太いとその中心部は壊死してほとんど残りません。吸収しきれずに残ったものは、しこりになって、のちのち石灰化などの合併症を引き起こしてしまいます。

豊胸手術のニーズの変化

 

脂肪注入豊胸のしこりが問題ないというクリニック

他の美容外科のホームページなどで、脂肪注入量に関して「200ccならいくら」や「400cc注入保証」と言う文言をよく見かけますが、実際に行うのは危険です。
実際そのようなクリニックで脂肪注入豊胸を行い、その後相談に来られる方のバストを超音波エコーで調べると、大きなのう胞ができていることがあります。
手術を受けたクリニックでは、ほっといても問題ないと言われるようですが、ご本人にとっては気になるもの。
これは、患者さんに聞いた話なので、真偽のほどは明らかではありませんが、「しこりができるのは当たり前」と開き直っているドクターもいるようです。しかし、しこりができるのは当たり前ではなく、きちんとした知識と技術があれば、しこりのリスクをカバーすることは可能なのです。
しこりを作らないことは当然ですが、万一できたときに、超音波エコーなどの装置で診断できないようであれば、手術とは関係なくとも、乳ガンなどの所見を見逃す可能性が高くなります。
少なくともバストに脂肪やヒアルロン酸などを注入するなら、術前・術後に超音波で診断できる体制で行うことは必須だと思います。

脂肪注入豊胸の定着率(生着率)の問題

「脂肪注入豊胸は希望の大きさになるか分からない」ということを耳にする事があります。これは、脂肪注入豊胸によるバストアップは注入脂肪の定着率に左右されると考えられているためです。
しかし、よく言われている脂肪の「定着率」や「生着率」というのは、実はその言葉自体に誤解を生みやすい要素が含まれています。これは、注入した脂肪の幾分かが、注入カ所の組織として残る(生着)と考えられていた時代の名残です。
実際には、注入した脂肪のうち、そのまま注入箇所に定着するのはわずか1割程度。その他の9割の脂肪細胞が死んだサインを受け取って、分布している脂肪幹細胞が脂肪組織に生まれ変わって(分化して)ボリュームとして残ることがわかっています。
ですので、脂肪注入法で大切になるのは、再生能力のある脂肪幹細胞ができるだけ多く含まれている脂肪組織を注入物として用いることが大切です。

脂肪注入豊胸の脂肪定着率に影響する3つの要素

前段を前提として理解していただいた上で、脂肪注入豊胸の定着率に影響する要素を重要な順に列記していきます。

脂肪定着率に影響する要素1:注入法・注入技術

まず大切なのは、注入された脂肪に十分に血流が届くようなテクニックです。ここで先に紹介した2.4mmヌードルインジェクションの技術が必要になります。
具体的には、片側200ccの脂肪を注入する場合、0.5ccずつ小分けにした脂肪を、長さにして11cmのヌードルで注入します。その数、実に400本に及びます。ドクターには大変な根気と技術が要求されますが、それに見合うだけの結果と患者さんの満足が得られています。

脂肪定着率に影響する要素2:注入量

次に重要なのは、適切な注入量です。というのは、バストという限られたスペースに大量の脂肪を注入すると組織内圧が高まり、血流を阻害してしまうからです。

授乳後のバストや、シリコンバッグの除去の後に脂肪注入豊胸に切り替える場合、組織に余裕があるので、このようなケースでは生着率が高くなります。
一方、バストの皮膚に伸びがない場合は、BRAVA(ブラバ)など、バストの組織を引き延ばす装置(ティッシュエクスパンダー)などの併用が望ましいでしょう。

豊胸手術のニーズの変化

一度に適切な注入量は、ケースによりますが、片側200〜250ccが最大量で、これ以上入れてもほとんど吸収されて残りません。
また、組織内圧が高まり過ぎると、本来定着するはずの脂肪でさえ吸収されたり、壊死やしこりなど望ましくないリスクを増すことになります。

脂肪定着率に影響する要素3:注入する脂肪の加工方法

最後は、注入脂肪の加工方法です。単位体積あたりの脂肪細胞と脂肪幹細胞の密度を、できるだけ多く保つことが必要です。
その方法は2つ。1つはコンデンスリッチファットのように加重遠心分離で幹細胞を濃縮する方法。2つ目は、脂肪組織の一部を酵素処理して幹細胞を取り出した後に脂肪組織と混合して、幹細胞密度を高める方法です。(これにはさらに機械式のセリューション法や細胞加工施設で行うCAL法などがあります。)

コンデンスリッチファットは、通常の脂肪注入に比べ、約1.5倍の細胞密度にすることができます。つまり限られたバストという空間の中に組織内圧を高めないでできるだけ多くの脂肪細胞と脂肪幹細胞を入れることができます。当院で行う脂肪注入豊胸は、このコンデンスリッチファットを用います。
なぜなら、セルーションも同様に脂肪幹細胞密度を高めることができますが、脂肪細胞の密度を高めることができないから。それは加重遠心分離をしないので、大きく成長した老化脂肪細胞を壊すことができないためです。
また、より多くの脂肪組織を必要とするため、痩せ形の人に不向きなのです。

コンデンスリッチ豊胸について

コンデンスリッチ豊胸は、自身の脂肪を採取し、加重遠心分離した良質な脂肪組織でバストアップする豊胸術です。

最近、コンデンスリッチ豊胸に関して、間違った解釈をしているクリニックのホームページを目にします。コンデンスリッチ豊胸について誤解されている点があるようなので、よくある誤解についても触れておきたいと思います。

コンデンスリッチ豊胸に関する誤解

コンデンスリッチ豊胸は遠心分離法と同じ

→同じではありません。
コンデンス処理はウエイトフィルターという重りに特許があり、加重遠心分離法と言われます。1ccあたりの脂肪細胞数と脂肪幹細胞の密度を上げるため、老化した脂肪細胞を圧力によって破壊し、壊れて出てきたオイルを抜く方法です。ただの遠心分離ではこのような圧力が加わりません。また、完全なクローズシステムで空気に触れないでオイル抜きの処置ができますから、加工のプロセスで感染の心配がないのも通常の遠心分離法とは違います。

豊胸手術のニーズの変化

ピュアグラフトは脂肪から血液や老化細胞など不純物を取り除く方法で、別名コンデンス(濃縮)法と言われている

→言われていません。
ピュアグラフトは濾過法で濃縮はされていません。当院で行った実験結果によると、ピュアグラフト処理された組織は洗浄液である乳酸リンゲルで薄まっているため、同じ揚力で比べた場合、コンデンス処理されたものの約2/3程度の細胞量になります。つまり同じ100ccを注入したとしてもコンデンス処理されたものの67cc分にしかなりません。
また、加重遠心分離をしないので、大きく成長した老化脂肪細胞を壊すことができません。

豊胸手術のニーズの変化

コンデンスリッチ豊胸と言いつつも、実は正しい処理をしていない普通の脂肪を混ぜて注入している

→これは言語同断です。
たしかに、集客用キーワードを目的にコンデンスリッチ豊胸と謳いながら、実際には正しい生成方法を行っていないニセモノのコンデンスリッチ豊胸を提供するクリニックも存在するようです。

まとめ

豊胸手術のニーズ変化に伴い、実際に当院ではシリコンバッグを取り出して、脂肪注入豊胸に切り替える人が増加しています。その際に行うのは、より安全で定着率が高いコンデンスリッチ豊胸です。しかし、コンデンスリッチ豊胸だから安心と言う訳ではありません。注入方法や注入量が適切でなければ、しこりのリスクは避けられないでしょう。
脂肪注入による確実なバストアップを望むなら、コンデンスリッチファットを用いて、バストに合った適切な注入量を正しい技術で行う必要があります。そこで初めて、リスク回避と、定着率80%という効果が可能なのです。